美しい蛙

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連載SS operation-4

4 『回帰』

こんなことでも無かったら、気付かなかったかも知れない。
死に瀕して初めて生きている喜びに驚くなんて、
人間はどこまで愚かに退化しているんだ?
僕はハナビと過ごす日々を当たり前に感じていたし、
それは永遠ではないと考えていた。
―所詮は初恋―だと。
実らず、続かず、気持ちは思い出と風化して薄れてゆく。
―出来れば良い思い出にしたい―
そんな程度に考えていた彼女との関係は、
あの日閃光がすべてを変えて、
永遠のものとなった。

いよいよTV放送も無くなったある日。
お父さんが病室に駆け込んできた。
僕はハナビの艶を失くした髪を梳いていたところだった。
「行くぞ!」
お父さんは嬉しそうに言うと僕の手を引っぱった。
「何処へ?」
「やっと私の研究室も移動を許可された。残務処理に追われていたが、やっとだ。
さあ、もたつくな。荷物をまとめろ。早くするんだ」
「待って。僕は何処にも行かない!」
「行くんだ、アマノ。政府は内密にしていることだがもう隠すことは出来ない。
そのうち日本中大混乱になる。今の内だ。
アメリカの宇宙エレベーターから月へ行く。四週間後、
火星へ移住する。もう火星の施設の準備は出来ているんだ」
「はあ?」
「宇宙旅行の気分だろ?」
「火星へ?馬鹿な…」
僕は嘘みたいな気分で鼻で笑った。
「もう日本は駄目なんだ!外国も被害難民を全て受け入れてくれない!
高官や企業の役員だけは外国へ迎え入れられたが、
お父さんだってやっと手に入れた生き残るチケットだ。
…………宇宙へ行ける倍率は三十倍だ」
「残りの人は?」
「外国の受け入れ先を待つか、日本に留まるかだ」
「だったら、僕も日本にいるよ!」
「日本はもう手入れが行き届かないんだ…水も木々も…
人の手が入らないと、土地は駄目になる」
「それでも、自分でなんとかするよ!」
「火星の暮らしの方がずっと快適なんだぞ?」
「なんで?裕福で身分の高い人しか生き残れないの?ハナビや他の病人はどうなるの?」
「キタムラさんの家の分までは手配できなかった。病人は置いてゆく」
「見捨てるの?」
「生き残るんだ」
僕はお父さんを問い詰めながら、自分の気持ちを感じた。
不快で、信じ難い、冷酷な言葉たちについて。
適当で、未来のある、正当な言葉たちについて。

手が千切れるほどの力でとうとう駅まで引っぱられた。
人がごった返すホームの向こうにお母さんの顔が見えた。
「良かった…家族が揃って…」
近くまで行くと、お母さんは涙ながらに静かに言った。
混雑のなか、人々は不思議と慌てることもなく、ただ不安そうだった。
残念だけどお別れだ。
「僕は残るよ」
勿論、両親は猛反対した。
「でもそんな簡単に捨てられない…」
簡単な答えだ。
「お父さんとお母さんは一緒に生きればいい。僕はハナビと生きる」
僕が臆面もなくそう言い放つと、踵を返し離れてゆく僕を
両親は泣きながら見送った。

僕は病院へ戻った。
ハナビは起き上がって相変わらず宙に目をやっていた。
ベッドの脇の椅子へ座ると、彼女の髪をくしで梳き始めた。
彼女は少し体を震わせると僕だと分かったらしく、
大人しく体の力を抜いた。
「実に簡単だ。僕は億劫なだけだったんだ。
世界の終わりとか、人類の新たなる一歩とか。
此処に残って君の面倒をみる、ってゆうのは大義名分。
生き残って背負う命の重責を僕がやり遂げられるかって?
無理に決まってる。
生き残るべきじゃなかったんだ…………」
ハナビはサイドテーブルからスケッチブックを取って、
何か書き始めた。
『地球は好き?』
驚くほど達筆な字で。
僕は母星を離れられない。
ならば僕は長く生きれなくても、子々孫々がこの地で暮らせるよう、
何か出来るかも知れない。
此処に残った人達と。
僕はハナビの頭をよしよしと撫でた。
また何か書き始める。
『地球中から人が居なくなり始める。
地球を愛してる人だけが残る。
そうすれば再生の道は開かれる』
「ハナビ?」
そっと囁くと、ハナビは小さく微笑んだ。
僕もほくそ笑む。
「何十年、何百年後に、地球を旅立った人間は後悔するんだろうね」

<了>



????????????
すみません、途中で息が切れました…。
本当は地球に残った人類と火星へ移住した人類の確執も
描きたかった(あと一編分くらい)…すみません。
最後ハナビがコーラリアンになって…すみません。
少年は見殺しにする後ろめたさから愛に生きることにしたんですよ。
生き残るよりよっぽど簡単な道を選んで。
でも地球に残った人の方が人類に貢献すると思います。すぐ死んじゃうけど。
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