美しい蛙

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連載SS operation-3

3 『感染』

世界は美しく変貌しているのだ。
緑の青が濃く映え、蒼空は深々と蒼くなるばかり。
息をすれば、空気は美味しいし、水道軟水は冷たく爽やか。
世界がどんどん様変わりして、僕はとうとう追いつけない。

ハナビに新しい乳白色のつめが生えてきたのも
素晴らしいことの―その内の何よりも―ひとつだ。
恐らくは僕自身の何事への捉え方が変わったのだと思う。
あの恐ろしいオレンジ色の光を見てから、
すべてが変わってしまったのだから。

被爆者は不思議と死ななかった。
老人も赤ん坊も死人のようだが生命は絶たれていない。
ハナビも相変わらず目も見えず声も聴こえずの状態だったが、
なんとか―重たそうに―腕と足を自在に動かせる。
だから、筆談をやらせてみたが
目が見えないせいか直ぐにペンを落としてしまう。
焦らなくてもいいんだ。

ある日、ベッドから車椅子に自力で降りた。
蛇のように体をくねらせて力の籠らない手でサイドレールを握って
横から落ちるように車椅子へ乗っかった。
「…すごいよ!頑張ったね!」
でも、ハナビは無感情に体の力を抜いただけだった。
顔の筋肉も動く筈なのにぜんぜん笑わない。

「これが連中のやり方だ」
―一体、誰の悪戯だって言うんだ…この惨状を?―
僕は、久しぶりに会ったお父さんに敢えて問わない。
「生かさず殺さず。介抱し介抱され、精神を削り合う。
聞いたか。被爆者がその家族らの手に因って殺される事件が相次いでいる。
正気か?正気じゃないか?どっちだと思う?
目を離した隙に病院の窓から転落自殺した例もある。
被爆者は通常、脳を汚染されていると研究結果が出たが
それも若干、脳波に乱れがあるのみで、意識ははっきりとしている。
だからこそ、被爆者自身も辛い」
「戦争に卑怯もクソもないでしょ」
「いいか、アマノ」
お父さんは窘めるように声をひそめた。
「これは戦争じゃない。日本は米国の同胞と見なされ、
被害を受けた、それだけだ」
僕はハナビを団扇で扇ぎながら、お父さんの方を見なかった。
「でも実際には、自衛隊が外国部隊と殺し合ってる」
「それを戦争とは呼ばないんだ…今は」
「戦術の基本でしょ。消耗戦でしょ」
「それでも被爆者は栄養失調でいつか死ぬ」
「汗が出なくて体温調節が出来ないから、死んでる人も多いんでしょ」
「ああ」
「毎年どんどん暑くなる」
今や夏は連日40℃を越す。
「でも僕は離れないよ」
「何処から?」
「此処」
「ずっとか」
「ずっと」
お父さんは何か難しい表情をして―暫くはお母さんも家に帰らない―
と言って出て行った。
「あんなの、気にしないからね。離れないからね」
僕はハナビの手を握った。
僕の手をぎゅっと握り返した。
最初、あまりの力にぎょっとしたが、直ぐに力は抜けて
またぐったりとシーツの上に倒れた。

人が移動を始めた。
大きなトランクを持った家族連れが不安そうな顔で
地方から東京へ集まりつつある。
ニュースでは伝えないけれど
水面下で対策が講じられたに違いない。
一体、何処へ行くってゆうんだ?

病院の院長も何処かへ行ってしまった。
何処へ行くかも告げずに、まるで夜逃げ同然に消えた、
のだと看護師達が教えてくれた。
「人類がとるべき道は始めから決まっていたんだ。
だけど歴史を決めるのは先駆者だけ。
あとの人はそれに従うしかないんだね。
宇宙は無限ではないのに。
だったら惑星が滅びるまでそこに留まるべきだよね?」
出るはずのない涙がハナビの瞳から零れる。
「ああ…違うの?
そもそも……………………」
その賢明な考えは美徳でしかないのかも知れない。

<続>



????????????
試練を目の前に、達観した少年の夢見る理想とは何なのでしょう。
愛の定義と対象とは。
次で終わる。終わらせたい。終わりたい。
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コメント


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次回も楽しみにしてます。

いーだ | URL | 2006年08月07日(Mon)11:26 [EDIT]


唯一の読者…いーだ君(T_T)
読んでくれてありがとうございます!

エア | URL | 2006年08月08日(Tue)21:05 [EDIT]


 

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