美しい蛙

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連載SS operation-2

2 『予兆』

僕等は空を翔る光から目を逸らせなかった。
次第に増してゆく地響きにハナビの声に不安の色が濃くなる。
「ねえ、あれなに?」
見たことのないそれに、恐ろしかったが、その場から動けなかった。
「綺麗…」
「うん、綺麗…」
青を切り裂くオレンジ色が端々と輝く。
「ねえ、アマノ…………」
腕にすがりつく彼女が言葉を続けようとした。
だが、爆音にすべて掻き消されてしまった。
爆風に吹き飛ばされ、僕等は地面に投げ出された。
林全体が大きく煽られ、轟々と草木の靡く音が耳を衝いた。
同時に、チリチリと肌を焼くような感覚が全身に走った。
目を開けてはいけないと思った。熱くて息ができない。

やがて地響きが遠のき、また別の爆音を遠くに聞きながら
僕は目をそっと開けた。
目の端にハナビの倒れている姿が見えた。
ピクピクと足がうごめいていた。
「ハ…!ハナビ…!!」
僕の声に反応して、体がビクンと大きくよじれた。
「あ、あ、あ、いやああああああああ…ああ…」
遠くで何かが倒壊する轟音と共に、聞いた事のないような
獣のような叫びが僕の耳をつんざいた。

ハナビはそれっきり、声も、光も、音も失った。

美しかった幼い顔も、皮膚がただれて、包帯で覆われてしまった。
黒真珠のようだった瞳は白く濁って、目蓋が重たそうに被さっている。
体はだらりと力を失い、首も落ち着かない。
腕にも脚にも、赤い斑点のようなものが、ぽつぽつと落ちていた。
ときどき、苦しそうに息が荒くなった。

ミサイルは宇宙エレベーターをなぎ倒し、ついでに、
辺り一面になにか悪いものを撒き散らしたようだ。
病院には次々とハナビと同じような状態の人が担ぎ込まれてきて、
パンク状態だ。
よく見る、パニック映画の阿鼻叫喚の図、そのもの。
まさか自身の身に降りかかろうなんて、そんなこと思ったこともなかった。
―でも、こっちが現実なんだ―
簡易ベッドに横たわるハナビを見て、僕は無頓着に思った。

夕方になると、慌しかった病院が急にしんとなった。
病院関係者らしき人達はひそひそと何かを伝え合い、
患者を囲む家族達がすすり泣く、神妙な空気が院内に広がった。
黒いスーツを着込んだガタイのいい中年の男が近付いてきた。
「探したんだぞ、アマノ。こんなところに…」
お父さんは、ハナビを一瞥すると、声を低くした。
「キタムラさんの娘さんか…」
僕はひとつだけ頷いた。
お父さんは僕とハナビのことを心好く思ってない。
―階級が違いすぎる―と、
ハナビの貧困な家柄や、治安の悪い集合住宅地域を悪いように言っていた。
「さっき首相の臨時会見が開かれたんだ。…見ていないのか?
爆発のとき、ウイルスが飛沫したが、発病因子がある者とない者がいる。
当然、まだ調べてみないとよく分からないが。
距離に関係なく…大多数が影響を受けるウイルスらしいが、
幸い、二次感染はないらしい。…お前が被爆しなかったのは良かった」
「そんなの嫌だ」
―僕とハナビは隣にいたのに―
「僕も一緒にしてよ!おんなじでいいよ!」
「お父さんは悲しむ。お母さんもだ」
お父さんが悲しそうな顔をしたから、僕は間違ったことを言ったんだと分かった。
僕は、咽をつまらせて、そして大声で咽び泣いた。

僕は毎日病院に通った。
学校は閉鎖になり、日々、生活機関が麻痺してゆく。
お父さんもお母さんも仕事場で忙しなく対策に追われている。
街をゆく人は足早に用事だけ済ませて帰宅する。

本土の人口の三分の一が被爆したこと。
どこかの国がどこかの国と戦争していること。
お父さんの悲愴な口調から聞いても、それ等は些事のように思えた。
ハナビの父親と一度会った。
ハナビの母親も発病して何処か別の小さな病院にいるらしい。
「自分はそちらの面倒を見なければならないから、娘をよろしく頼みます」
と言って、それっきり顔を見せない。

「ねえ…」
今日もハナビに話し掛けてみる。
お父さんは何も聴こえない、と言っていたが本当は聴こえているのかも知れない。
だから、彼女が退屈しないように、たくさん話し掛けてみる。
つきっきりの看病の成果か、ハナビは少し手足を動かせるようになった。
首も回るようになって、YES.NO.は表現できるようになった。
「ハナビ、頑張ったね…」
虚ろな目は、ただ宙を仰いでいる。
服を脱がせて、体を拭いてあげる。
「どっかの国が助けを出してくれて、それで、ちゃんと治るから。
全身の皮膚を交換する手術をして綺麗にしてあげる…」
そしてまた服を着せる。
「目が見えるようになったら、先ず何が見たい?」
顔の包帯を取り替える。
紅い染みの広がった、蝋のような顔。
でもちゃんとハナビの面影が残っている。それだけで愛おしい。
ひび割れた口から、かすれた息が漏れる。
「あ、水が欲しいんだね?ここにあるよ…」
被爆者はいつでも咽が渇いているらしい。
瓶から水を流し込んであげると、一口含んで、ゆっくりと飲み込んだ。
一口ずつ、ゆっくりとゆっくりと飲んでゆく。
僕は不謹慎にも、彼女の幼げな仕草が微笑ましくなる。
「美味しい…?」
返事の代わりに、こくんと咽を鳴らした。
お父さんの話では、飲んでも飲んでも、渇きは収まらないらしい。

―かわいそう―
僕はふと手を止めて、一粒涙を零した。
何故だか分からないけど胸がいっぱいになって涙した。
―君の家族が君を見捨てようと、僕は見捨てたりしないよ―
―これはやっぱり愛なのかな?僕はそんなに君のこと好きだったかな?―
またハナビに水をあげる。

ハナビの手が伸びて、見えない目で僕を探して、僕の頬にやっと触れた。
首を横に振る。
何かNO.の合図。
「なにがダメなの?」
ボロボロになった彼女のツメが、剥がれて僕の膝に落ちた。

<続>



????????????
書いて書いて書きまくれ!酷評も質より量で閉口させたる!
「君を包帯でぐるぐる巻きにして、看病してあげたい」
そんな病的な恋に恋する。
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